酵素とは

 酵素(enzyme)とは生体内で起こる化学反応を触媒する物質(タンパク質)で、要するにそれ自身では生活機能を持たないが、他の物質に対して触媒的に活性作用を有するタンパク質のことです。

 大きさは非常に小さく顕微鏡などでは見えません。構造は20数種類のアミノ酸が様々な組み合わせで結合してできているポリペプチド鎖です。このポリペプチド鎖は直線状ではなく、ラセン状となっており、さらにラセン構造が折り畳まれ立体的な球状の構造となっています。

 酵素は立体構造の一部分に活性中心(active center)というものを持っており、その構造に適合する基質(substrate)が結合し触媒作用を発揮します。この酵素と基質との特異的な結合の性質を基質特異性と呼んでいます。

酵素反応

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酵素の分類と機能

 酵素は触媒作用によって基質(タンパク質、糖質、脂質など)を分解・合成・酸化・還元などを行うことができます。これによってタンパク質、糖質、脂質などの構造を変えて、新たな味・香り・テクスチャー・色をもつ物質をつくりだすのです。

 酵素は国際生化学連合によって定義された、酵素番号(Enzyme Commission Number)という4桁の番号(たとえばEC 3.2.1.1)によって分類されています。

 名称は系統名と推奨名とが設けてあり、系統名は一定の法則によってつくられ、始めに基質名を、後の部分に反応を表す語をつけ〜aseで終っています。推奨名は酵素番号を定める以前から使われていた呼び方で、酵素の作用する基質にaseをつけたものです。

酵素名やEC番号・分類など詳しくはこちら、IUBMBExPASyで調べられます。


酵素番号

酵素番号の最初の数字は酵素の機能から6種類に大別されます。

1.酸化還元酵素 (oxidoreductase)

物質の酸化又は還元反応を触媒する

2.転移酵素 (transferase)

反応物質の一部を切り取って別の分子に結合させる転移反応を触媒する

3.加水分解酵素 (hydrolase)

ペプチド結合、エステル結合などの加水分解反応を触媒する

4.除去酵素 (lyase)

基質からある基を加水分解によらないで切り取り、二重結合を残す。又はこの逆で二重結合にある基を付加する

5.異性化酵素 (isomerase)

異性体に変化させる働きをする

6.合成酵素 (ligase)

異なる分子同士を結合させて新しい分子を作る、又はこの逆で、結合している分子を切り離し、他の分子に結合させたりする働きをする

2番目の数字は1番目の機能を細分類しています。例えば、

3.1 エステル結合に作用するもの
3.2 グルコシル結合に作用するもの
3.3 エーテル結合に作用するもの
3.4 ペプチド結合に作用するもの
3.5 ペプチド結合以外のC-N結合に作用するもの
3.6 酸無水物に作用するもの
3.7 C-C結合に作用するもの
3.8 ハライド結合に作用するもの
3.9 P-N結合に作用するもの
3.10 S-N結合に作用するもの
3.11 C-P結合に作用するもの
3.12 S-S結合に作用するもの

3番目の数字はさらにその次を細分類しています。例えば、

3.1.1 カルボン酸エステル加水分解酵素
3.1.2 チオールエステル加水分解酵素
3.1.3 リン酸モノエステル加水分解酵素
3.1.4 リン酸ジエステル加水分解酵素

4番目の数字は3番目の分類内における一連番号です。例えば、

3.1.1.3 トリアシルグリセロール リパーゼ
推奨名 triacylglycerol lipase
系統名 triacylglycerol acylhydrolase
3.1.1.8 コリンエステラーゼ
推奨名 cholinesterase
系統名 acylcholine acylhydrolase

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醸造・発酵食品で活躍している酵素

 それでは実際にこの酵素たちがどのような働きをしているか見てみましょう。ちなみにどの微生物がどのような酵素を生産しているかは、まだ全て解明されてはいません。よってどの食品にどの酵素が働いているかも全ては分かっていません。だからこそ微生物を利用した醸造・発酵食品分野は神秘の世界となっているのです。


タンパク質分解酵素

プロテアーゼ (Protease)

 プロテアーゼはペプチダーゼ(peptidase EC 3.4)ともいわれ、ペプチド結合(-CO-NH-)の加水分解を触媒する酵素の総称です。

ペプチド結合の加水分解 タンパク質の構造は、多数のアミノ酸がペプチド結合によって縮合したもので、分子量は数万から数百万の高分子化合物です。

ポリペプチド鎖

 プロテアーゼは種類が多く作用機構も多種なため、分類が非常に難しい酵素です。よって、いろいろな分類法・名前が混在していますが、特性から大きく2つに分けられています。

 一つは、ポリペプチド鎖の途中のペプチド結合を加水分解して、幾つかのペプチドにするエンドペプチダーゼ(endopeptidase EC 3.4.21-99)、もう一つはポリペプチド鎖のアミノ末端あるいはカルボキシ末端から逐次切断して、アミノ酸またはジペプチドまたはトリペプチドを遊離するエキソペプチダーゼ(exopeptidase EC 3.4.11-19)です。

 前者としてはアスパルティックエンドペプチダーゼ(aspartic endopeptidase EC 3.4.23)など、後者にはアミノペプチダーゼ(aminopeptidase EC 3.4.11)、セリンカルボキシペプチダーゼ(Serine-type carboxypeptidase EC 3.4.16)などがあります。

 しかし、実際に一つの発酵食品に作用しているプロテアーゼの種類は非常に多く、どの酵素が作用しているとはなかなか特定できません。

 よって、一般的には作用する至適pHから酸性・中性・アルカリ性プロテアーゼ、および作用する末端からアミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼと大まかに区別し、数種類のプロテアーゼをまとめて分類しています。

 タンパク質のプロテアーゼによる分解は、一般的にエンドペプチダーゼによって大まかに切断され、その切断されたペプチドがエキソペプチダーゼによってさらに細かく切断されます。この作用によって、うま味やコクなどの素であるアミノ酸やオリゴペプチド(アミノ酸が2〜10個つながったもの)を遊離します。

 プロテアーゼは醤油味噌・チーズにとって非常に重要な酵素で、大豆や乳などのタンパク質を分解し、おいしさを与えてくれます。


デンプン分解酵素

アミラーゼ (Amylase)

 アミラーゼはデンプンやグリコーゲンに作用して、α-1,4-グルコシド結合α-1,6-グルコシド結合加水分解を触媒する酵素の総称です。

 デンプンの構造は、幾つものD-グルコースがα-1,4結合のみによって形成される直鎖状のアミロース(amylose)と、α-1,4結合を主体とするが、所々にα-1,6結合で枝分かれした側鎖を持つ分枝状のアミロペクチン(amylopectin)とがあります。

α-アミラーゼ
 (α-amylase、1,4-α-D-glucan glucanohydrolase EC 3.2.1.1)

 この酵素はデンプン、グリコーゲンなどのα-1,4結合をランダムに切断するエンド型の酵素で、デキストリンやオリゴ糖、マルトースを生成します。

 デンプン糊にこの酵素が働くと、急激に粘度が低下するので液化アミラーゼとも呼ばれます。

グルコアミラーゼ
 (glucoamylase、1,4-α-D-glucan glucohydrolase EC 3.2.1.3)

 この酵素はデンプンの構成要素であるアミロースとアミロペクチンのα-1,4結合を非還元性末端から順次グルコース単位で切断し、分岐点のα-1,6結合も分解し90〜100%グルコースを生成します。ただし微生物起源の相違によってα-1,6結合の分解力は異なるので、70%程度しか分解できないものもあります。

 デンプン糊にこの酵素が働くと、粘度低下はしないが甘味がでてくるので糖化アミラーゼとも呼ばれます。

 アミラーゼはデンプンを分解し、デキストリンやオリゴ糖、マルトース、グルコースを生成します。この作用によって甘味や物性が変化するわけですが、酵母はグルコースを主としてアルコール発酵を行うので、アルコールの生産量とも密接な関係があります。よって、アミラーゼは清酒・焼酎・ワイン・ビールにとって非常に重要な酵素です。

 ビールは麦芽の持つアミラーゼにより大麦のデンプンを糖化してから、酵母で発酵させる単行発酵ですが、清酒は麹菌のアミラーゼによる米デンプンの糖化と、酵母によるアルコール発酵が同時に起こる並行複合発酵を行っているため、特にアミラーゼを生産する微生物の選択が重要となります。


脂質分解酵素

リパーゼ (Lipase)

 リパーゼは脂質に作用して、脂肪酸とグリセリドに加水分解をなす(その逆の合成作用をするものもある)酵素の総称です。

 食品に含まれる脂質の大部分は通常3分子の脂肪酸が1分子のグリセリンとエステル結合したトリグリセリド(中性脂肪)です。リパーゼはこの脂質から各種脂肪酸を遊離したり、新たなエステル類を合成したりします。これらは香りの主成分でもあるので、発酵バターやチーズの香味に重要な関係があります。

 ロックフォール(ブルー)チーズの特有な刺激臭と風味は、この酵素によって生まれます。


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